SDMの概念-1. SDMの定義

SDMの概念

1. SDMの定義

米国Institute of Medicine(現:National Academy of Medicine)では、患者の要望や価値観を確認し、意思決定に必要となる教育や支援を提供するとともに、患者が自らのケアに参画することを求めている1)。しかし、医療者と患者の情報の非対称性が拡大し、専門知識に基づく医療者の判断と患者が本来望む医療の乖離はpreference misdiagnosisとして指摘されている2,3,4,5)

患者参加型医療を勧める欧米では、患者の自律性や価値観を尊重する必要性が早くから認識されていた。SDMは1982年に米国のレーガン大統領の諮問機関による造語であり、従来型のインフォームドコンセントの発展型として位置づけられている6)。患者中心主義に基づく2つの価値観として、個人の幸福と自己決定権をあげ、その推進のために相互の信頼と協力に基づいて行われるべきものとしている。さらに、単に医療技術の選択肢を提示するだけのプロセスではなく、利益・不利益、費用、不確実性を伝えることが必要とされている。以来40年に亘り、SDMの関連研究が進み、SDMは医療のすべての分野において取り入れられてきた。

SDMは診断・治療の過程に含まれるべきものであり、患者の理解を深めるばかりでなく意思決定過程に取り込み、利用可能な医療の利益やリスク、選択肢、医療行為の結果などを理解し、科学的根拠と個人の価値観の観点から望ましい医療を選択することを支援する方法である7)。インフォームドコンセントはしばしば、SDMと同義と捉えられている。インフォームドコンセントは法的な観点から導入されており(国内では医療法)、SDMとは厳密には異なっている。ただし、インフォームドコンセントは患者の同意の確認ではなく、積極的な意思表明を求めており、そのために医療者は医療情報の提供を正しく行う必要がある8)。一方、SDMは、医療における意思決定過程における患者参画を推進し、医療者が患者にとってより良い選択をともに行うことにある。医療技術の進歩で患者に複数の選択肢を提供できるようになったが、複雑化した医療の中で個人にとって最適な医療を選択することは容易ではない。こうした医療の変化に伴い、SDMの役割がさらに重要となっている。

SDMは、より広く患者の視点を取り込み、意思決定への参画を促すことで、すべての医療現場において医療者の支援のもと、患者がより良い選択に至るプロセスである9)表 1)。しかし、我が国では、SDMの概念は正しく広まっておらず、従来型のインフォームドコンセントと同義の、情報伝達の機会として捉えられている。インフォームドコンセントとは異なり、SDMでは公平性を確保し、健康格差を改善することが重視されている。情報やコミュニケーションの不足のため、受けられるべき医療が受けられないという状況を可能な限り回避し、医療への公平なアクセスを確保することが必要となる。特に、社会的弱者にとって、正しい知識を提供することにより、保健医療における公平性を確保できることが指摘されている。このため、健康に関する知識レベルの低い人々にも様々なツールを用いて正しい情報を伝え、疑問に答えることが強調されている。我が国ではともすれば、医療者から患者への一方向性の情報伝達となりがちだが、本来的には患者の権利と社会的公平性を保つことで、誰もが健康な生活を享受できることを目標としている。

表 1. SDMの定義9)
狭義SDM 広義SDM
概 要 医療の方法に関する情報交換と誰が医療の方法を決定するかについての議論に主たる焦点がある 医療の選択肢に関する情報交換やどのように評価し実施するかだけではなく、可能性のある選択肢を抽出し、どのような問題があるかを俯瞰する
方 法 医療者は研究ベースの情報を、患者は自身の選好についての情報を持ち寄るという役割分担を果たしたうえで、医療を選択する 医療者と患者が意思決定において、どのような貢献ができるか医療者に意見を求める
医療者との
関わり
医療者の過度の影響から患者を保護する 医療者は患者の参画を促す
価値観 患者の価値観を踏まえ、それに基づく意思決定を行う 患者が自らの価値観を明らかにできるようなサポートを必要としていることを認識する
自律性 干渉を回避し個人の自律性に基づく意見をより重視する 干渉を回避し、社会的に形成された能力や機会に注意を払いつつ個人の自律性を重視する
文 献
  1. Committee on the National Quality Report on Health Care Delivery; Hurtado MP, Swift EK, Corrigan JM, Editors. Envisioning the National Health Care Quality Report. Washington, DC: The National Academies Press. Institute of Medicine. 2001.
  2. Lee CN, Hultman CS, Sepucha K. Do patients and providers agree about the most important facts and goals for breast reconstruction decisions? Ann Plast Surg. 2010;64(5):563-6.
  3. Volandes AE, Paasche-Orlow MK, Barry MJ, Gillick MR, Minaker KL, Chang Y, Cook EF, Abbo ED, El-Jawahri A, Mitchell SL. Video decision support tool for advance care planning in dementia: randomised controlled trial. BMJ. 2009;338:b2159.
  4. Boden WE, O’Rourke RA, Teo KK, Hartigan PM, Maron DJ, Kostuk WJ, Knudtson M, Dada M, Casperson P, Harris CL, Chaitman BR, Shaw L, Gosselin G, Nawaz S, Title LM, Gau G, Blaustein AS, Booth DC, Bates ER, Spertus JA, Berman DS, Mancini GBJ, Weintraub WS, COURAGE Trial Research Group. Optimal medical therapy with or without PCI for stable coronary disease. N Engl J Med. 2007;356(15):1503-16.
  5. Mulley AG, Trimble C, Elwyn G. Stop the silent misdiagnosis: patients’ preferences matter. BMJ. 2012 Nov 8;345:e6572.
  6. President’s Commission for the Study of Ethical Problems in Medicine and Biomedical and Behavioral Research. Making Health Care Decisions: A Report on the Ethical and Legal Implications of Informed Consent in the Patient-Practitioner Relationship: Volume One: Report. 1982. https://repository.library.georgetown.edu/bitstream/handle/10822/559354/making_health_care_decisions.pdf
  7. NHS England and NHS improvement. Shared Decision Making Summary guide. 2019. https://www.england.nhs.uk/wp-content/uploads/2019/01/shared-decision-making-summary-guide-v1.pdf
  8. Sheridan SL, Harris RP, Woolf SH; Shared Decision-Making Workgroup of the U.S. Preventive Services Task Force Affiliations expand. Shared decision making about screening and chemoprevention. a suggested approach from the U.S. Preventive Services Task Force. Am J Prev Med. 2004;26(1):56-66.
  9. Entwistle VA, Watt IS. Chapter2 Broad versus narrow shared decision making: Patient’ involvement in real world contexts. Shared Decision Making in Health Care. Achieving evidence-based patient choice. Third Edition. Oxford University Press, 2016.